Friday, March 7, 2008

舞台を創るという仕事、それを支援するという仕事 ~シンポジウムから見えたもの~ Part2



皆さん、こんにちは。三富です。


先日の前編に続き、「舞台を創るという仕事、それぞ支援するという仕事 ~シンポジウムから見えたもの~」の後編をお届けします。


第2部のディスカッションでは、各国の助成制度から、アーツカウンシル、そして社会における演劇の役割などに話題はおよび、パネリストもヒートアップ。予定時間をオーバーし、22時まで熱のこもった話し合いがつづきました。





■ 第2部<ディスカッション>


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パネリスト


第1部のパネリストに加えて、


ナルモン・タマプルックサー(タイ/演出家・俳優・ライター・パフォーマー)


ハーバート・ゴー(通称:バービー)(フィリピン/演出家・俳優/前タンハーラン・フィリピーノ芸術監督)


ホセ・エストリーリャ(フィリピン/演出家/デュラアン・UP・シアター・カンパニー芸術監督)


松井憲太郎(世田谷パブリックシアター プログラムディレクター)


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久野ではまず、各国の支援体制について教えてください。






ロディ:フィリピンでは、大きく分けて政府(National Commission for Culture and Arts: NCCA)や民間企業、国際交流基金マニラ事務所やゲーテ・インスティテュート、アリアンス・フランセーズといった海外の団体や大使館による支援があります。また、マニラの文化センターでは、会場提供や研修の機会の提供といった支援を行っています。


さらに、ロックフェラー財団では、メコン地域や中国南部のプロジェクトについて、ジェンダーやセクシュアリティというテーマに限定して助成事業を行っています。





助成を受けることで、助成する側のアジェンダにのっとって作品を創造する、またはフェスティバルを実施することが求められる場合もあり、苦労します。また、申請する側にとっては、助成する側のアジェンダや意図がどこにあるのか探る必要もあり、過去には複数のバリエーションのプロポーザルを用意し、助成する側とのミーティングに臨むこともありました。







ハービー:その他にも、フィリピンの政治体制に特徴的なことですが、政治家や市長などの権力者とコネクションをもっていれば、彼らから寄付を引き出すこともできます。







ナルモン:タイでは、企業のスポンサーや、広告代理店の協力、国際交流基金やゲーテ・インスティテュート、ブリティッシュ・カウンシルなどの小額助成プログラムを利用することができます。





ただし、タイの場合は演劇だけで生計を立てる人は少なく、照明や印刷会社を経営するなど副業をもつ演劇人が少なくありません。そのため、副業を活用し、例えば舞台の照明を経営する自らの会社で舞台照明を行うなどして経費の節減に努めています。







トゥア:私たちは、”try not to rely on those who support us”(支援する人に依存しない)ように努めています。自立し、持続可能な体制を自らつくっていくことが重要です。


ですから、例えばバンコク・シアター・フェスティバルでは、参加する劇団からはフェスティバルの参加料を徴収しています。また、私自身大学で講義を持ち(実はあまり好きなことではないのですが)、大学関係者や学生らとコネクションを持つことで、彼らにボランティアとして働いてもらったり、大学側に無償で会場提供してもらったりしています。






久野:最近、シンガポールのアーツカウンシルをモデルに日本でも東京・大阪・横浜などにアールカウンシルをつくろうという動きがあります。シンガポールのアーティストとして、この動きをどう思いますか?






ハレーシュ:シンガポールのアーツカウンシルは、1990年に香港やイギリスのアールカウンシルをモデルに設立されました。私自身、政府の団体にも関わらず、アーティストとの話し合いにも非常に積極的であるカウンシルは、比較的効果的に機能していると思います。難点を挙げれば、アーツカウンシルの予算の配分と複雑な助成システムです。



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(ハレーシュさんが芸術監督を務める、M1 FRINGE Festivalのパンフレット)





久野:ローハン・ジャーニーのプロジェクトに関して、世田谷パブリックシアターでは国際交流基金から助成を獲得することに成功したわけですが、その辺りの経験談をお聞かせいただけますか?






松井: 国際交流基金の場合は、以前の助成プログラムは、日本の専門家を現地に派遣してワークショップを実施するなど、演劇の技術供与的な側面が強かったのですが、担当者との話し合いを通じて、共同制作の意義を共有することができ、結果としてそういったプロジェクトにも支援してもらえるようになりました。







横道:助成団体の意図が固定化してしまうと、時代の情勢を反映せずに自分たちの考えを押し付けることになって非常に危険だと考えています。国際交流基金のプロジェクトベースの支援というのは、申請団体の実績等だけに拠らず、本当に意義のあるプロジェクトであると認められれば支援するという柔軟性を備えているといます。世田谷パブリックシアターへの助成も、関係者の方々と話し合う中で、このプロジェクトの意義を理解し、またそれに共感することができたために決定したものです。







ロディ:以前、PETA(フィリピン教育演劇協会)で活動していた際に、どうすれば助成団体を説得できるかを考えたことがあります。ただ、アーティストの視点から考えるのは非常に難しい。一方で、あまりに助成団体の意図を汲み取りすぎると、自分たちの方向性がどの団体から助成を獲得するか、によって決まってしまう恐れがあります。






久野:支援する側もされる側も顔の見えるディスカッションが非常に重要となってくるわけですね。第1部で、ロディから、ウィッシュリストの提案がありました。これについて、国際交流基金としてどんな支援が可能でしょうか。






横道: 国際交流基金では、アジア地域における青年交流を促進しようという外交上の動きを反映し、近く若手アーティストの招へいプログラムが立ち上がる予定です。照明や音響などの技術面の研修に加え、日本の団体とのコラボレーションにも波及するようなプログラムとしたいと考えています。






久野:第1部で、横道さんから、日本の演劇には社会問題を扱うものが少ないとの指摘がありました。皆さんの作品では、常に社会問題をテーマとしていますが、演劇が社会問題にコミットする意義はどこにあるとお考えでしょうか。






ホセ:”Theater is a very powerful media for social change.” 大学時代に、教官から、舞台を演出する時は、自分が観客に伝えたいことがなくてはならないという指導を受けました。







バービー:フィリピンでは、観客の99%が学生です。ですから、私たち演じる側は、彼らにマスメディアで垂れ流される意味のない情報とは違い、彼らを開眼させ、別の世界を見せなくてはならないと強い責任を感じています。







トゥア: 演劇は昔から、社会を動かす「手段」として活用されてきました。ただ、今日の私たち演劇人は漫然とその「手段」を使うだけでなく、もっと違った演劇の役割について考え、実践する必要があると強く感じています。






久野: 最後に松井さん、ホテル・グランド・アジア後の5年間のローハン・ジャーニーを振り返って、ローハン・ジャーニーを通じて得たもの、また将来のビジョンについて教えてください。






松井: 「演劇を社会的な文脈において、道具として活用する」ということが、ローハン・ジャーニーの出発点での目標でした。そして、これまでとは違った社会における演劇の役割を発見したいとも考えていました。つまり、「より良い社会を実現するために、演劇がより力強い、影響力のある手段となるためには、どうしたらよいか」ということです。


そのためには、1つに土台やネットワークづくりが必要です。さらに、その土台を維持する団体(例えば、国際交流基金やセゾン文化財団のような)がなくなったとき、自立するためにはどうしたらよいか、についても継続的に考えていかなくてはなりません。


ローハン・ジャーニーを通じて、土台やネットワークづくりは進んできています。今私たちは、ようやくスタートラインに立ったのではないでしょうか。


そして、これからがチャレンジングであり、また重要な時期であると考えています。






舞台を創る側の強いメッセージがこめられた、社会を動かす手段としての演劇は、さらにコラボレーションを通じて形成される演劇人のネットワークを活用し、一層の力強さをもって、社会に働きかけています。





一方で、演劇を取り巻く環境はアジアにおいて(もしかしたら他の地域においても)、まだまだ発展途上にあり、ロディさんのあげるウィッシュ・リストや個々の演劇人がもつ夢の実現には、舞台を創る側の努力だけではなく、周囲の支援が必要不可欠です。


舞台を創る側と、それを支援する側が演劇の力に共感し、それをさらに発展させるという目標を共有し、コラボレーションがなされることで、実現してきたローハン・ジャーニーのプロジェクト。


両者の協働の中に見えるのは、まさに、ハレーシュさんがおっしゃるように、スポンサーとしてではなく、一緒に闘う支援団体の姿ではないでしょうか。





土台やネットワークづくりが進むローハン・ジャーニーにあって、「自立すること」についても意識化されています。これからのローハン・ジャーニーの活動の進展と並行して、私たち支援をする側も常に“時代の情勢を反映した”支援のあり方について考えていかなくてはならないことを実感しました。





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