Friday, September 12, 2008

アチェ子ども会議~「アチェの子どもたちと創る演劇ワークショップ」から1年~






インドネシア・スマトラ島・アチェ。

インドネシア政府軍と独立派勢力による衝突が30年に渡って続いた元紛争地*1




ジャパンファウンデーションは、2007年4月、芸術・文化の力で、元紛争地、アチェの子どもたちの精神的・心理的ケアのお手伝いをしようと、復興支援事業「アチェの子どもたちと創る演劇ワークショップ」)を実施しました*2





その演劇ワークショップから1年。


ワークショップに参加した子どもたちは、あれからどうしているのでしょうか。





今年8月、ジャパンファウンデーションでは、昨年の演劇ワークショップに参加した子どもたちが、かつての紛争のこと、自分や周囲に生じた変化のことを振り返り、将来の平和維持のためにできることなどについて話し合う「アチェ子ども会議」を開催しました。


f:id:japanfoundation:20080911114102j:image





今日は、本事業の担当者麦谷職員のインタビューを交えながら、アチェ子ども会議をご紹介したいと思います(記:くんし)。


(右が日本研究・知的交流部アジア大洋州課麦谷さんです。)


f:id:japanfoundation:20080911110237j:image:right




















◆ 子ども会議の内容とは??

子ども会議は、2008年8月16日から20日までの5日間、アチェから約300キロ、車で10時間の山間地帯にある中アチェ県の県都タケゴン*3で開催されました。



大きな地図で見る





お話を聞きながら、まず何と言っても驚いたのが、タケゴンの場所!(地図上の「A」地点)





地図の左上にあるのがアチェですが、そこからタケゴンまでは約300キロ。


日本で言えば、東京から名古屋くらいまでの距離。決して近い距離ではありません。しかも、移動の容易ならぬ山間部!! 


ちなみに、そもそもスマトラ島ってどこだっけ?? という方のために、縮尺を大きくすると、以下になります。



大きな地図で見る






麦谷さん:開催地としてこの場所を選んだ理由は、昨年の演劇ワークショップの開催地がアチェ(北アチェ県)でしたので、各地域の参加者に出来る限り公平になるように、参加者の中に出身者が多い中アチェ県の県都を選びました。









◆ 参加した子どもたち


2008年の演劇ワークショップには紛争被害の経験を持つ中学生・高校生30名(中アチェ県、北アチェ県、ピディ県から各10名)が参加し、寝食をともにしましたが、今回の会議には、その30名のうち25名が参加しました。


子どもたちにとっては、1年と4ヶ月ぶりの再会となりました!








◆ 地図を作る、協働作業


再会を喜んだ後、まずはエクスカーション! タケゴン近郊の湖のほとりにある伝統的な木造建築家屋を見学しました。その建物はアチェの王族の住居だったそうで、今も近くの村に末裔の方が住んでおり、その方が木彫の意匠や部屋の内部について案内をしてくださいました。


その後、近くの村を訪ねて、地図を作るというグループ・ワークに取り組みました。村の人たちにインタビューして、村の歴史や、家族構成、周りにある自然環境などを書き込んでいきます。


f:id:japanfoundation:20080911104219j:image



麦谷さん:「どうして直接関わりのない村の地図を作るの?」と思われるかもしれませんが、この後、皆には、自分たちの村の地図を作ってもらう予定にしていたので、その練習をしました。


「子どもたちの精神的・心理的ケア」と言っても、参加した中学生・高校生は、それぞれ、インドネシア政府(国軍)寄りの家庭・村、独立派ゲリラ(GAM)寄りの家庭・村とそれぞれ異なる背景がありますし、まだ精神的な傷跡が生々しく外部者が軽々しく掘り起こせることではありません。


特に前回のワークショップでは、自分の住んでいる村を離れて初対面の同世代と集団生活をする緊張感などから、とても紛争について直接、語り合う雰囲気ではありませんでした。


今回もワークショップのファシリテーターを務めてくださった花崎攝さんは、それは慎重にプログラムを企画してくださり、現場でも刻々と子ども達の様子を見ながら、どこまで・どんな風に進められるか、細かい調整をしながら進めてくださいました。






 地図を作るという作業にはいろんなことを総合的に学ぶ機能が含まれています。


 例えば、道路・農地・家屋・学校やモスクなどの公共施設の配置を空間的に理解するだけでなく、それらの配置がどうしてそうなっているのか、固い言葉で言えば、ミクロなレベルですが、権力の分布を一覧することができますし、過去の出来事を書き込むことで「教科書の歴史=国家レベルの歴史観」とは違う「村の歴史」を考えることもできます。


 地図は社会的な構造を把握するにあたっていろんな役割を果たします。






麦谷さん:これらのグループワークは、敢えて違う村の出身者同士でグループを作り、インタビューをする人、地図を書き留める人など役割分担をしながらの協働作業としました。


 


 誰の出身地でもない村で地図作りの練習をした後は、いよいよ、本番、自分たちの村の地図作りに取り組みました。


f:id:japanfoundation:20080911104342j:image


地図に書き込むことは、(1)現在あるもの、(2)昔の記憶や出来事、(3)将来、村にあるとよいもの、の3つです。


つまり、現在・過去・未来を地図上に表現してもらいました。この過去の部分で、直接的に触れるのはこれまで憚られた紛争時の出来事を表現してもらえないかと考えました。


また将来について考える機会を設けることで、これからの平和は自分たちが作っていけるのだという気持ちも実感してもらいたいという狙いもありました。



f:id:japanfoundation:20080911104536j:image





◆ 子どもたちのエンパワメント


子どもたちは、言うまでもなく次代の担い手。


紛争を体験した大人たちのわだかまりを取り去るのは容易ではないかもしれませんが、次代を担う子どもたちが、相手を知り、相手を理解し、異なりを越えていく経験を重ねることで、次また紛争に陥るリスクを低めていけるはず・・・。






麦谷さん:グループごとに地図を発表した際、「この通りで銃撃戦があった」「誰それが怪我をした」などと話しているうちに、泣き出してしまう子どももいました。でも、このような作業を通じて、自分たちの村を振り返る、村を理解し直す、将来への希望をみんなで共有することができたことは、次につながる一つのステップとなったと感じています。






◆ アチェ子ども会議担当者としての思い






麦谷さん:今回の事業は、前回の演劇ワークショップのフォローアップとして構想したものです。どんな事業においても言えるかもしれませんが、子どもたちの精神的ケアを主眼とした事業であれば尚のこと、やりっぱなしにするのではなく、フォローをした上で、次の展開をしたいと考えていました。また、現地の地域コミュニティから十分な理解を得ていくためにも、やはりフォローが必要と考えました。


f:id:japanfoundation:20080911115332j:image:right





現地の復興支援に携わるのに、紛争地、元紛争地での事業実施経験が少ないジャパンファウンデーションは適役なのか、国際機関や国際開発NGOにゆだねる方がよいのではないかという戸惑いは常にありました。


しかし、今回実際に現場に赴き、現地の子どもたちのエンパワメントのプロセスに関与できたという実感を得ました。


ジャパンファウンデーションの強みである芸術・文化交流によって、元紛争地の子どもたちの精神的復興に貢献する事業の、一つのモデルにできたのではないかと思います。今後は、昨年度の演劇ワークショップ以来事業を共催してきた現地NGOコミュニタス・ティカール・パンダンに事業の実施主体を移していくことで、引き続き事業を継続していければと考えています。






ここで、お知らせです。


来週9月17日(水)18:00~20:00に、





ジャパンファウンデーション(本部:東京)にて、





JFサポーターズクラブ9月イベントが、





開催されます!!








テーマは、「芸術による、元紛争地の子どもたちの心のケア~インドネシア・アチェ~」。


アチェ子ども会議で実際に現地に赴いた、演劇専門家の花崎攝さんにお話していただきます。


ホームページの申込方法をご参照の上、メールまたはファックスでお申込ください!


(参加費はJFサポーターズクラブ会員であれば無料、一般の方は200円となります。)


皆様のご来場をお待ちしています。




*1:2004年12月のスマトラ沖地震をきっかけに、和平への機運が高まり、2005年8月15日に和平合意が成立しました。


*2:担当者談はこちら、ブログ記事はこちらこちらをご参照ください。


*3:ナングロ・アチェ・ダルサラーム州 中アチェ県にあります。





No comments:

Post a Comment